マフィアは孤独に恋を謀る。

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 フレデリックを伴って事務所へと足を踏み入れた辰巳を見ても、匡成は何も文句を言いはしなかった。ただ、僅かに驚いたような顔をしただけだ。 「おう、久しぶりだな。フレッド」 「やあ匡成。少しの間、お邪魔させてもらうよ」 「そりゃあ構わねぇが、遅刻を見逃すのは今日だけだ。わかったな?」 「ふふっ、匡成には敵わないね」 「まぁいい、座れ」  小言らしい小言を聞かされることもなく、匡成の許しを得てフレデリックは腰を下ろした。だが。 「はぁー…ったく、俺はお前の育て方を間違えたようだな一意」 「あぁん?」 「フレッドの方がよっぽど極道らしいって話だよ。この阿呆」 「意味わかんねぇな」  意味が分からないと渋い顔をする辰巳に、匡成は再び溜息を吐いた。 「どこの世界に時間に遅れてきて謝りもせず煙草ふかす馬鹿がいんだ、ああ?」 「はッ、つまんねぇ事言ってんじゃねぇよクソ親父」  部屋に入るなりさっさと腰をおろし、煙草を吸っていた辰巳である。それも、匡成の側近の手から火を受け取って。 「僕は辰巳ほど豪気じゃないというだけで、別に極道に向いてる訳じゃないよ」 「豪気ねぇ…物は言いようだな」     
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