白昼の深夜

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「あたし赤ピーマンなんて、君に会うまで買ったことなかったよ」  私が持つ買い物かごに入ったパプリカを見ながら、そう言って先生はケラケラと笑った。  深夜一時のスーパーは、びっくりする程静寂に包まれている。夕方には近所の主婦たちでごった返していたであろう野菜売り場も、今は私と先生しかいない。 「良いねぇ。何か、新婚っぽいよね。スーパーで野菜を買うなんて」  そう言って先生は、私の腕に自分の腕を絡ませてきた。近付いてきた柔らかい体からは、薔薇をベースにした香水の香りに交じって、煙草とお酒の匂いがする。  酔っ払うと私を呼び出すのは、先生の悪い癖だ。超放任な家とは言え、高校生が夜中家を出ることはそう容易ではない。その事実を判っていないのか、甘い、大人の男の人を誘惑するような声で、度々私の携帯に「会いたい」と電話してくる。
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