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疵痕
昔見た夢と云うモノは大概すぐに忘れ去ってしまうモノ。
仮に三日前に見た夢を尋ねられたとしても、多分何も答えられないに違いない。
その夢を見たその事実をおぼえているか怪しいものだ。
だがそれでも、ごく希に忘れ得ぬ事ができない夢というモノがある。
そう自分の見た夢がそうだ。
もしかしたら、ソレは夢でさえ無かったかもしれない。
しかしながらもアノ夢の生々しさ、自分からナニカを奪い去ったアノ感覚。
夢であったかもしれない其のナニカは確実に心の何処かに傷を遺し、其の遺された傷は刻と共に染みとなり、やがて疵痕となった。
疵痕は染みついた何かの様に決して消える事は決して無い。
刻と忘却と言う名の慈悲がやがて、その記憶、存在を拭い去ろうと試みるが、その傷痕は決っしてソレを許す事は無い。
必ず何かに強いられるように思い出させされるソレは忘却が諦め、消え去ってしまうまで悪夢の投影を繰り返す。
そう、ソレはまるで静かな闇に紛れ隠れていた影を無理矢理日の光の元に引き摺り出すかのような所業だった。
ソレは嘗ての自分そのものだったのか、いずれなるであろう自分なのか。
ソレは有り体に言えば、この世でたった一つの存在である自分の映しで投影。すなわち影だった。
その事実、悪夢の中で刻まれたその生々しい痛みに刻まれた感覚は染みついて離れない。
ソレはあたかも自分の影そのものようで、己についてまわり決して振り払う事が出来ず、やがて最後には思い知らされる。
ソレはすでに自分の産み出す世界の一部になってしまっていることを。
・・・そう。たしかにアノ夢、紅に染ま影の森で魔女に出会い、右目と半身(かげ)を奪われたその記憶こそが夢であって。その痛みこそ紛れもない真実であったのだと・・・・・・・
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