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「で、どうだったかな、彼?」
ニコニコしながら訊いてくる男に、司令室さながらに車内後部に構築された最新監視・追跡システム機材を目の端でとらえ、ノエルはぶっきらぼうに言った。
「視てたくせに」
「うん。でも複数の最終確認が必要なんだ、上に報告する時にいろいろ面倒があってね。
きみの得た感触を包み隠さず話して欲しい」
「……恐ろしかった。あれは野放しにしちゃいけない。間違いなくまたやる」
「……了解。あとは僕らに任せて、ノエルはゆっくり休んでおいで。悪かったね。あみだくじで当たったとはいえ、女性にはキツかったよね!? あ、冷蔵庫に桃缶あるよ。良かったら食べて?」
大事な任務の最中でも桃缶を忘れない男に思わず苦笑する。
だが、甘くて冷たい、ツルリとしたあの食感を、いまの自分が心から欲しているのもまぎれもない事実だった。
タッパーに入った黄桃の一片にフォークを挿し、口に運ぶ。
ふだんは缶詰の果物をさほど口にしないノエル。
だが、精神的にハードな仕事を一つ終えたいま、安堵とともに口中を甘くひんやり潤してくれるヘビィシラップ漬けの黄桃は、なかなかどうして悪くない。
『おいしい。副長にとって、これはいわば“癒しアイテム”なのね』
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