第一章 女弁護士の最終確認

8/10
前へ
/43ページ
次へ
 なじみの刑務官に付き添われ、監房へ戻る日下部宣久服役囚。  その道すがら、刑務官が日下部に穏やかに声をかける。 「良かったな日下部。ここでの経験を糧に、もう一度きちんと人生をやり直すんだぞ」 「はい……ありがとうございます、大和田刑務官。刑務官にはいくら感謝してもしたりないくらい感謝しています」 「保護会のメンバーにも、それくらいの気持ちで接するんだぞ」 「はい!」  日下部の返答に満足した大和田は、監房棟につながる鉄製ゲートの前に辿り着くと、インタフォンで内部監視室に指示を出した。  重々しい擦過音とともに、ゲートが大儀そうに開く。  大和田にうながされ、日下部が足を踏み入れるや、開くときはあれほど遅鈍だったにもかかわらず、まるで流れるようにゲートが閉まった。 「じゃあな。もう少しの辛抱だ、しっかりな」  もう一度声をかけられた日下部は、足を止め、大和田に深々とお辞儀をした。  そうして二人は背中合わせになり、それぞれが向かうべき場所へと歩みだした。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加