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「俺は最初、施設を飛び出して、建築現場のタコ部屋で暮らしてた」
「パシッ?」
「え、あぁ、タコ部屋ってのは、現場に建てられた掘っ立て小屋でよ、畳三枚が敷いてあるだけで、他には何もない、壁は薄いコンパネ一枚だけ、本当に寝るだけの部屋の事だよ」
「!・・・」
「そのタコ部屋の近くに小さなパン屋が有って、俺は仕事の帰り、そのパン屋に、よくパンを買いに行ってたんだ」
「・・・」
「そのパン屋でバイトしている、多分、大学生かな、俺より三つか四つくらい年上の、名札に紺野って書いてある姉ちゃんが居て、その姉ちゃんが、俺に良くパンの耳や、売れ残りのパンをくれたりしたんだ」
「・・・」
「あの頃の俺には、金しかなかった。信用できるのは金だけでさ、目的も無く、ひたすらに、切り詰めて、切り詰めて、ただ、貯金をしていた・・・っておい、聞いてる?」
シーン
「おーい」
シーン
「おい!あんた!」
「ピッ!ピシッ」
「なんだよ、寝たのかと思ったぜ、つか、幽霊って、寝るもんなのかな?、まぁいいやでよ、ある日、俺、インフルエンザだと思うんだけど、高熱を出して寝込んだんだ」
「・・・」
「そしたらさ、夜、なんと、姉ちゃんが、パンと薬を持って、汚い現場のタコ部屋までわざわざ訪ねてくれたんだ」
「・・・」
「薬を飲ませてくれたり、熱ピタシートを張ってくれたり、介抱してもらって、俺、その時、思ったんだ」
「・・・」
「俺、ずっと一人だったから、気付かなかったんだ。人には居場所ってものが必要で、そこに、自分以外の誰か、出来る事なら、自分が大切に思える、誰かが居て、その人と、体温を分かち合って、暮らして行く事、それを自分は、望んでいるんだって」
「・・・」
「聞いてる?」
「ピシッ」
「変かな?」
「パシッ!」
「そっか、へへへ、誰にも内緒な」
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