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住み慣れた部屋の荷物を片付けてみた。
家具なんて呼べる代物は一つも無く、全部がリサイクル店、若しくは荒ゴミで拾って来たガラクタばかりで、そんな物に愛着も有る筈は無く、捨てる事に何の躊躇いも覚えない。
写真だって一枚も持ってやしない。
施設に住んでいた頃を思い出してみる。
記憶と云うなら、それは在る。
しかし、その記憶の中に出て来るあらゆる登場人物の顔は、曖昧模糊で、誰の顔も思い出せなかった。
その時、俺は思う。
・・・あぁ、ひとりぼっちで、生きて来たんだな・・・
そんな中、たった一人だけ、しっかりと顔を思い出せる人が居た。
パン屋の店員さんだった紺野さんだ。
・・・俺、紺野さんが・・・好きだったのかな・・・
そう呟いて、染みだらけの低く古い天井を見上げた瞬間だった。
明らかに窓から西日が差している筈の壁に、俺は今まで見た事がない黒い染みが視界の端を横切るのを感じた。
茫とし、散乱していた意識がその黒い染みに集まる。
「ピシッ」
「え・・・?」
ブッシャァァァァーーーーー!
ブッシャァァァァーーーーー!
ブッシャァァァァーーーーー!
ブッシャァァァァーーーーー!
部屋に有る三か所の蛇口が狂ったように水を噴き出した。
「おわぁぁぁぁーーーー」
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