10人が本棚に入れています
本棚に追加
聞こえてはいても、どうせ意味なんか分かるわけない。
意識は半分あっちへ行っているだろうし、なにより、この女はバカなんだから。
女が顔を少し歪めて、自分では色っぽいとか思っていそうなあえぎを漏らした。
「なんだってあんたみたいのが、いいんだろうねえ」
うちの姉さんは。
耳元に溜息を吹き込んだ瞬間、きゅうと肉が指を吸い、女は媚びるような声を上げて身体をひき絞った。
ああ、やかましい。
舌打ちはどうにかこらえて私は糸を引く指先をティッシュで拭った。
ぬるぬるしたこの感触とこのひとの体温は、いつまで経っても好きになれない。
帰って早く手を洗いたい。洗面台の、固くて真っ白いあの石けんで。
ほどけかけた胸元のリボンを直して腰の上から降りると、女は視線だけで私を追ってきた。
椎名さんの視界の中で私が床に落ちた紺色のスカートを拾い上げる。
「あれえ、もういいの?」
けだるげな締まりのない喋り方も。ほんとにちっとも、趣味じゃない。
横顔にひりひりと視線を感じながら、敢えて気づかないふりで脇腹のファスナーを上げた。
「まだ足りないんですか、あんたは」
「んー。それもないわけじゃないけどさあ。リネもいかせてあげようかって言ってんの」
最初のコメントを投稿しよう!