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ただいつも、こういうことをして帰ると右手が腐敗したみたいにいつまでも臭い気がするだけだ。
くたびれたタオルで水気を拭き取って、私は胸の中で半裸のおトモダチに苦笑いをしながらリビングに踏み込んだ。
優等生。品行方正。
そういうのは、こいつに言ってやればいい。私なんかよりよほどお似合いなんだから。
いそいそと食卓に向かい合わせに夕飯を並べる姉さんは、どこからどうみても真面目で善良で、心優しいオネエチャンだった。
それも私の記憶にある限り、ずっと。
性質的には裏で姉の思い人とこそこそ逢瀬を重ねる妹なんかと比べるまでもなく優れた人間なのに、この家では出来の悪い人間の位置に甘んじている。
「いただきます」
姉さんは丁寧に手を合わせてから、母の作り置きのおかずに箸をつけるよりも先に右手に持ったクリーム色のチューブの腹を押す。
無造作に落とされたマヨネーズが、ハンバーグの上にべしゃりと広がった。その勢いのまま、今度はピンクの茶碗に盛られた白米の上にびゅっとマヨネーズを絞り出した。
「ん? りーちゃんも、使う?」
「いらない」
即答した私に特に興味もなさそうに、姉さんは赤いキャップを閉めてまたテーブルの上にマヨネーズをさかさに立てた。
食卓が一瞬で、地獄絵図だ。
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