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あんたの大好きなあの女とも気兼ねなく逢えるしね?
澄まし面の裏でそんなことを考えながら、挽肉を咀嚼する姉さんの顎の動きを盗み見る。
「そっか。りーちゃんも、もう高校生だもんね」
「なにそれ。自分だって、もう三年生じゃない。進路とかちゃんと考えてるの?」
「うーん。そうだよね」
マヨネーズに溺れた冷凍ブロッコリーを箸で救出して、姉さんは困ったように笑った。
「志望校とかもういい加減決めないといけないんだけどね」
まあ決められないんだろうな、と思う。
このひと、本当に昔から自分の意思というものがない人だから。
やりたいこととか好きなこととか、たぶんあんまりないんだろう。それか、あっても分からないのか。
「いいんじゃない? 適当にそれっぽい大学でも言っておけば」
「りーちゃんは? りーちゃんは数学も英語もできるから、どこの大学だって行けそうだね」
いいなあ、と屈託なく姉さんが笑う。私の中でちりりと小さくさざ波が立つ。
「別に。どこの大学でもってほどでもないし」
私は姉さんのこの顔が大嫌いだ。
妹である私に敗北してるくせに、まるでそれに納得してるみたいな穏やかな笑顔で。
ふわふわと無垢に見せる、この笑顔が大嫌いだ。
ぶん殴りたくなってくる。
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