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日本の遠野地方には、さまざまな民話、妖かしの登場する物語を多数伝える土地があるという。明治時代の高名な民俗学者が、それらの物語を調査し、世に問うている。あるいは、このトランシルバニア公国も、日本とは正反対の欧州の真ん中にあるのだが、偶然にも同じような条件が存在したのかもしれない。
鬱蒼としたシュバルツシルトの森という”木々の海”の中に浮島のようにあるのが、このトランシルバニアなのだ。けして大きな国ではない。むしろ香港やシンガポールに近いサイズの都市国家だった。そうした小国家が離合集散して、今の欧州の国々に成長していく長い歴史の流れから取り残されたような国。だが昔々から、彼らはこのシュバルツシルトの森と共に生きてきたのだ。
その一方でその歴史は、いったいどれほどの昔からになるか、今でも想像もできない。ローマ時代以前、ゲルマン民族が蛮族といわれたときには、すでにここに人は住んでいたのだった。それは、また、地球の裏側の日本と同じく、その豊かな森ゆえにその恵みを受けて厳しい冬も生きながらえることができたから、と説明されている。
しかし、それだけではない・・一部の好事家は、そう考えている。調べてみると、多少意見が分かれるにしても、太古、大氷河期にあっても、この少し北側でその氷河が終わっていたらしい。この辺りは、一万年以上昔から森が存在し、アフリカ大陸を離れた現生人類は、その時代には、この氷河直近の森に到達し、集落を形成していたらしいのだ。それはあの失われたムー、アトランティスの時代から、という少々イカれた人々が、話題にしているほどである。
実際その時代の洞窟絵とかが報告された。そうなると、この地域の人類の歴史は、何万年かに及ぶ時代を過ぎてきたことになる。
ああ、その間につむがれた物語があるとすれば、いったいどれほどになることだろうか。実際、このトランシルバニアには欧州の多くの神話、説話だけでなく、オリジナルの民話が豊富に残っているのだ。それはトランシルバニアのオリジナルというだけでなく、欧州の他の地域では失われた多くの説話神話が形を変えて生き残っているという研究もある。その豊かな世界は、魑魅魍魎、妖かしが跋扈する遠野と違い、正邪聖魔が入り乱れる英雄譚であったりする。
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