ルーナ戦記ことはじめ

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 ある意味、その豊富な物語世界が、今のトランシルバニアの財産なのかもしれない。ハリウッドで有名になった吸血鬼男爵や、狼男、人造人間といった数々の怪物怪人も、このトランシルバニアの出身なのだ。  時代の流れを受けて、国民の議会制度を取り入れたが、今も英国同様に、ジーベンビュルゲン公家が支配する君主国家なのだ。一説によればムー、アトランティスの時代から連綿と続く血脈の王家。そんなとんでもない話を、しかし公家は、上手くはぐらかし認めもしないが、否定もしないのだった。  確かに、学術的に後追いができないゲルマン民族時代から続いているのは間違いないらしいが、さすがに、アトランティスというのは、それはないだろ、と言うところではある。だが、その胡散臭さが、この小王国の真骨頂であることを王家もわきまえているのだった。  国全体が御伽噺のオーラのとりまく、不思議の国として、観光産業で成り立っているのだった。けして裕福とはいえない財政事情なのは明らかだが、それでも国家が存続しているのも事実だ。さらにいえば、確かに、この国に”不思議な血脈”があるのも事実だった。  その筆頭が、この王家の王女、プリンセス・ルーナだった。稀代の超能力者。テレパシーや予知能力の持ち主として、数々の専門家学者の意地悪な試験も通過し、世界的に認められた存在なのだ。彼女の華々しい成績に隠れてしまうが、この国の国民の中には他にも傑出した能力者が多数居るという話もあるのだが。とにかく、彼女は別格だった。さらに、厚顔なハリウッドの大物プロデューサーが、彼女に映画出演を申し込んで久しい、それほどの美貌の持ち主でもあるのだ。その見事な金髪も含め、ただそこに立っているだけで、一服の絵画に勝る存在感。まさに、プリンセスの存在そのものが、今はこの国の大看板なのだった。  「メイ・カムイ・・日本人にしては、不思議なお名前ね」その・・陳腐な言い方で恐縮だが、絶世の美少女のプリンセス・ルーナが、ちょっといぶかしがるように言った。赤い真珠のような唇から、言葉がこぼれ出る感じであった。  「おわかりですか」長身の東洋人の青年が答える。すっきりとはしているが特段に正装というわけではない。  「アキラ・イヌカミ・・でしたね」ルーナは、欧州人には珍しく正確にそう発音した。
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