ルーナ戦記ことはじめ

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 「それも、超能力ですか」彼女に正対した長身の青年は、本名を呼ばれたことに少し驚いたように聞いた。  「まさか、秘書課からの資料を見ただけです」ルーナは、小さく微笑んだように見えた。  「ペンネームというか、海外の友人には、その方が受けがいいので、海外では、そう名乗っています」  ここは、トランシルバニアの王城の一室だ。特別な謁見室というわけではないのだが、床の厚手のドラゴンや植物の意匠をふんだんに使った絨毯から、椅子、テーブル、全てが手のかかったゴシック、中世の重厚な什器がそのまま使われているのは間違いない。いささかくどい感じがしないでもないが、それでも芸術性に富んだ物達であるのは間違いない。  「確かに、それは賢明なことかもしれませんね。私も、メイ、とお呼びしていいのかしら」  「それは、お任せします、プリンセス、どうぞ、ご自由に」青年は、慎重に言葉を選んで言った。細身のメガネの向こうの瞳は、しかし、世界的に高名なルーナの前でも怖気づいた様子がまったくなかった。  「しかし、どうして僕のような人間に会って見ようなんて思われたのですか。僕のほうから、お願いした記憶はないのですが」  「私では、不足ですか」  「いえ、そういうつもりではないのですが、単にいぶかしいというか」  「きっとお忙しいのでしょうね」  「いえ、必ずしもそうではありません。滞在期間は限られていますが、それ以外は自由裁量の取材の旅なので」  「それをいえば、私にもご協力できることもあるかもしれませんよ」ルーナはどこか面白がっているように言った。  「僕のようなものには願っても無い申し出、なのでしょうが、正直、戸惑ってしまいます。一帯、どうして、僕なんかを」  部屋の中の心地よい香りは、部屋に飾られた花、テーブルの上の茶器の中のトランシルバニア産の紅茶だけではないと思われる。  「ちょっとした、人違いなのです、ごめんなさい」  「え」その率直な言葉に、さすがの若者も、少し驚いたようだ。  「あなたのお名前、日本では一般的なのでしょうか」  「さあ・・アキラは、確かに一般的ですが。僕と同姓同名の誰かと間違われたのですか」  「ええ、そうなんです」  「どうなのでしょう。話には、僕と同姓同名のルポライターがいると聞いたことはありますが、むろん、赤の他人で、あったこともありません」
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