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「そういう意味では・・」
「ああ、私のほうが年上のようですけど、どうか、助手を雇ったとでも思ってください。ああ、通訳、どうなのですか?王族のものならまだしも、庶民はあなた方にとっては方言のきついドイツ語しか話せない物はまだ多いですから」
「はあ」
「で、お車は、どこに」
メイは完全に王女に押し切られた自分を感じ、おもわず天を見上げた、一瞬、だが。
「・・これが、あなたの車、ですか」王城の駐車場の片隅にさりげなく置かれた何の変哲も無い自転車を見て、目をぱちくりとさせる。今しがた街角の店で買ってきたものといわれても驚くに当たらないシロモノ。
「ええ、これが僕の足です」
「なんか、普通の自転車ですが」
「民俗学の取材には、これが一番です。車が入られないような、道のない場所も多いですからね、これくらいごつい方がいいんです。もちろん、安価で、どこでも手に入るからってのもありますが。僕のような貧乏学者には十分。僕の研究は欧州の中を縦横に走り回るわけではないですから、トランシルバニアだと国内全土ということにはなりますが、まあ、だいたい日本の主要都市ほどの広さなので」
「なるほど、わかりました。ちょっと待っていてくださいね」
「は・・?」
「爺、爺、居ますか」ルーナは、木立のほうに声をかけた。
「はい、ここに」禿頭のひょろりとした老執事が、ちょっと前かがみで姿を見せた。
「爺、これと同じものを、買ってきてください。すぐに使います」
「これならば・・お城の中にもありますが」
「では、それを持ってきなさい」
「はい、プリンセス」
「・・いつも、そんな感じなのですか、プリンセス」
「ええ、王城の中では。でも、外では、プリンセスのカゲムシャのナルということで、それが、何か?」
「いえ、まあ、いいです」
「おまたせしました、プリンセス」早速に、執事は、自転車に乗って姿を見せた。並みの姫ならば、乗ってきたことを叱責するところだろうが、ルーナの場合は、それよりも早さを優先する性格なのだろう。「これでいいですね、メイ」
「はい、ナル・・でよいのですね?」
「結構です」
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