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そうはいうものの、メイは内心、渋面をつくりたいのだった。当然ながら、きままな調査旅行を計画していたのだ、いかに超美人の秘書を得たということであっても、それよりも自由のほうがいいのが、メイという男だったのだ。しかし、かといって、彼女を置いてきぼりにして逃げ出すというわけにもいかないのは言うまでもないだろう。
さて、どうしたものか。当然ながら、資料は全て宿に預けてお城に来たわけで。とにかく一旦宿に戻るしかない。そこで、どうするかを考えるしかない。
王城から出た周囲の町は石畳、レンガ造りの今の時代では低い家々が立ち並ぶ。トランシルバニアが欧州の時代劇のロケ地としても有名なのは自然な成り行きだったとわかる。むろん、ここは旧市街地とでもいうべき場所なのは、言うまでもないにしても、見上げても、簡単には今風の背の高いビルをみることができない。それも景観を考えてのことなのだろう。
しかし、タイムスリップしたのではないかと錯覚を疑いたくなる風情がある。これは、それこそルーナたちの発想なのだろうが、仕事として中世らしい服装をしている高齢の男女が町の中を散策しているのはかなり適確な演出だろう。この流れで、ドラキュラや狼男、魔女にコスプレした人間もいるらしいが、どこで遭遇するかは、お楽しみということで。
王城ではないが、別荘の一つがドラキュラ伯爵の”恐怖の館”として提供されている。
エンターテメントになっているが、しかしこの国に残る多くの神話伝説はホンモノ。それこそ、研究者にとっては宝の山なのだ。欧州の全ての神話伝説の震源地と考える人間もいるが、この地が、長い間に渡り差別民を受け入れる土地柄・・いや、それよりも、そもそもがこの土地自体が、古代の戦乱を嫌ってこの森の奥深くに逃げ込んだ人たちによって作られた国であることがあるのだろう。
流浪の民であるジプシーがその活動の拠点として、欧州中の民話や神話をこの地に齎し、この中で皆で工夫し新たな音曲などの出し物にして新たに興行の旅に出たからとも言う。
メイも、研究者の一人として、その民話成立の歴史の中に身をさらし何千年もの人々を友として、その成り立ちなどを解き明かす一石を投じたいと考えているのだった。ルーナというおまけがついても、それが変わることはない。
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