ルーナ戦記ことはじめ

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 繰り返しになるが、トランシルバニアには、悪魔、魔物と神、天使だけでなく、魔法使いやら魔道師、悪党、英雄が跋扈する。  そう、たとえば天下のイカサマ師カリオストロ伯爵の屋敷はカジノになっており、この国の大事な収入源になっていた。しかし、別の見方もある。この小さな国を列強の猛攻から守りこの桃源郷を守るために、人々が工夫し他方法の一つが、イカサマ賭博であったり、盗賊義賊だったのだ、と。  だが、それも結論は出ていない謎なのだ。諸君は、この謎を解きたくないか?  メイは自転車をこぎながら、物語に現れる人々の光と闇、悲喜こもごも、あれこれを夢想する。あるいは、こうしてあれこれと彼にとってこれこそが、一番の至福のときなのかもしれない。  そして、このトランシルバニアに人々が居ついた最大の根拠もまた・・神話と民話に彩られているのだった。それが、”ルーナの泉”であった。  かの”ルールドの泉”などと同じく、奇跡を起こす泉と全世界に知られているのだ。温泉もある。  その昔、戦争で傷つき国を追われた王が、偶然に月の女神が降り立ったこの泉を教えられ、その水を飲み、また患部にそれに包帯を漬けて覆ったところ快癒した。そのお礼に、この泉と月の女神を守ると約束し、改めてここに国を興すことにしたというのだ。それが、このジーベンビュルゲン王家の始まりとされる。  実際、周囲の遺跡を発掘すると、何時の時代とも知れぬ古いものであったという。何はなくとも、まっさきに、メイはこの奇跡の泉を訪れるつもりだった。  ある意味、この国の不思議が、すべてこの泉から始まっていると感じたからだ。この奇跡の泉が、欧州の各地で困難にあっている人々に、逃げ込む憩いの場所となった。その逆に、その秘密を知った列強の王や邪まなものを呼び寄せたのは、時間の問題だとはすぐにわかるだろう。  こうして、このトランシルバニアに神から悪魔まで総動員した一大絵巻が開幕するのだ。その物語をして、人々は泉の名・月の女神の名を冠して”ルーナ戦記”と名づけたのだった。  それらは、ばらばらで荒唐無稽な物語、神話・民話でありながら、それぞれを部分とする、壮大な叙事詩であった。
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