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『クマさん、というのは、月渚のパパのことで、もともとは熊田(くまだ)洋(ひろし)さんという名前だった。もともとは、というのは、ノエルさん、こと、月渚のママ、天草(あまくさ)光沙(みさ)さんと結婚する前は、ということで、クマさんがノエルさんの家にお婿さんに行って、名前が変わる前は、ということだ。結婚するより前、ノエルさんは熊田洋さんのことを「クマさん」と呼んでいたので、そのクセがいまだに残っていて、クマさんと呼ぶ。それで、月渚も、その友人である私も、月渚のパパのことを、クマさんと呼ぶようになった』
「うわ、いきなり、ややこしいね」
私が書いていた原稿を覗きこんで、月渚が言った。
「いらないんじゃない? クマさんが、どうしてクマさんて呼ばれてるか、なんて話」
「そうかな」
「だって、読む人には関係ないもん。ウチでクマさんを、クマさんて呼んでるなんて」
「そっか」
「うん、なんか、ウチじゅうのことが世間にバレちゃうみたいだし」
「でも、じゃあ、何、書こう?」
「クマさんが書いてる『古事記』の本だよね?」
「そう、その序文を書いてほしいって」
「亜美、文章書くのじょうずだもんね」
「じょうずじゃないよ。なんか、できるだけ若い人に読んでもらいたいんだって。それで、読んでくれる人に、歳が近いからって」
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