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「トロンプ・ルイユ」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
「だまし絵」と訳されることが多いフランス語で、言葉そのままの意味は「目をあざむくこと」といった感じの言葉です。では、どんなときに使われるかというと、たとえば絵画で、ぱっと見たところ、ある絵が描かれているように見えるけれども、よく見ると実は、べつの、もうひとつの絵が潜んでいる、という作品を「トロンプ・ルイユ」と表現します。トリック・アートのひとつでもあります。
いまから『古事記』について書いていくのですが、この書については、学校の歴史の時間でも習いますし、これまでも多くの学者(国文学者や民族学者)によって、様々に研究され、解釈されてきました。ですから、いまさら「古事記について書きます」といったところで、どんなことを書くのだろう、と思われるかと思います。それで、さきに書いた「トロンプ・ルイユ」という言葉とつながってくるのですが、私は『古事記』を読むうち、この書の中には、まだ解き明かされていない、多くのナゾが秘められているような気がしてきたのです。そのナゾというのは、「歴史の真実」とか「その時代の政治的背景」とか、そんなたいそうなものではありません。あくまで『古事記』に書かれる文字を追いかけるうち、素朴に「?」と浮かんできた疑問であり、ちょっと考えるだけではよく意味の分からないナゾのことです。この本では、そのナゾを、「トロンプ・ルイユに描かれた、もうひとつの絵」をさがすようにして、推理していきたいと思うのです。
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