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お互い、その物わかりの良さが悲しかった。
数センチの距離でテーブルの上に置かれた手と手が、愛おしそうに指先を相手に向けている。
一瞬ためらった後、密が類の手を掴んだ。
逃げたくないと思って編入した高校。でも、どうしても人の輪に踏み込み切れずに作っていた垣根をあっさりと飛び越えて自分を包み込んでくれた密の大きな手。
重ねた手を見詰めている類の瞳がどんどん潤んでゆき、表面張力の限界を超えて涙がテーブルに落ちた。
ぱた、ぱた、と音が聞こえそうな程透明な涙がいく粒も落ちて、妙に明るい蛍光灯に照らされた無機質な表面を濡らしてゆく。
嗚咽する事も、肩を震わす事もなく、静かに泣いていた類は、重ねられた手を静かに引いて涙をぬぐった。
次に会う時には、自分は、彼は、何になっているんだろう。
もう少し大人になっていれば、思う通りの事ができたのかな。支えられるようになっていたのだろうか。
『会いに来て』
類の言った言葉だけが、今にも口からあふれそうな密の気持ちを辛うじて押しとどめていた。
「どこに行くかは無理に聞かないけど、俺バイトして金貯めて、必ず行くから。
だから、来てほしいならちゃんと連絡して。待ってる」
精一杯の虚勢。
それだけの会話の後、空き席を探す人が増えてきた店内から押し出されるように外に出て、別れた。
「じゃあ元気で」
「そっちもね」
さようならは言わなかった。
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