探偵テルツェット

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 なんとなく口元がゆるんでしまう。 『さっき言い忘れてしまった……のですが、依頼を受けるにあたって着手金の支払いをお願いしたく――』 「ああ、ごめんなさい。すっかり忘れていました。いくらですか?」 『二十万円です』 「えっと……」  どこだったかな? 引き出しを上から順に開けていく。 『こら、勝手に値引くな』 『いいだろこれくらい』  電話口からくぐもった声が聞こえる。 「……あった」  引き出しの上から三段目に、目的のものはあった。  棚いっぱいに敷き詰められた一万円札。  無機質な福沢諭吉たちが、こちらを一斉に見返している。  その中から束を一つ取り出して、封を切ってみる。  手中から紙幣がばらばらこぼれていく。 「……現金払いで構いませんか?」 『えっ、あ、はい』 「では、また明日にでもお持ちします」 『! よろしくお願いします』 「あの……」 『?』 「頼りにしてますよ、加島さん」  では、と電話を切ってから、電話帳に番号を登録する。 「さて……」  テーブルに置かれた二つの封筒。  それぞれ違う私書箱宛てになっていて、片方は宛名に“ジェーン・ドゥ”と書かれた加島探偵事務所の封筒。もうひとつは別の探偵事務所のものだ。     
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