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東京都大間区高間の駅前。
雑多な飲み屋街、パブの立ち並ぶ通り。
夜ともなれば客引きや強面のお兄さんと酔っ払いが混然と行き交う場だが、午前は打って変わって人通りもまばらだ。
その通りに沿ってまるで壁のように連なる雑居ビルの中にその事務所はあった。
「3F 加島探偵事務所」
確認がてらビル入り口の案内板を読み上げてみる。
マッサージ店やパブの店名に挟まれていると、まっとうなはずの看板も若干胡散臭く感じる。
住所の書かれた封筒を鞄にしまおうとして、脇に停められたピザの宅配バイクに気が付く。
時計を見ると、午前10時。
「こんな時間からピザって……」
げんなりしながらも、目に入ったサイドミラーで身だしなみを確認する。
アイロンでなでつけた黒い髪。切りそろえられた前髪の下から除く黒い瞳。
メイクもまあ、大丈夫。女子大生として最低限のマナーは抑えているはずだ。
「大丈夫だ。がんばれ……わたし……わたし……」
徐々に積みあがっていく不安と緊張を胸に、入り口を抜けようとして出てきた“その筋”みたいな男を前に立ち止まってしまう。
「……加島んとこに用か?」
「は、はい……」
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