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彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、妖艶に微笑んできた。
い・ら・っ・しゃ・い。
吐息をもらしながら、口の形を変える少女。
「…………!!」
戸を閉め、看板を確認する。目的の事務所で間違いない。
たしかに内装は応接セットに窓際のデスク、壁に並ぶ資料棚とかなり事務所っぽさはあった。
どこかのいかがわしいお店に間違って入ってしまったわけではない。
でも、なぜ中であんな……?
飛び込みできたわけでもない。電話で予約をいれていたはずなのに。
「どうしよう……?」
もう一回開けて、中を確かめてみるべきか?
意を決し損ねていると、急に視界が暗くなった。
驚いて頭上を見上げると、
「なにか用か?」
すぐ真上に切れ長の瞳と斜めに切りそろえられたショートヘア。
いつの間にか、ラフな服装の女性がすぐ背後からこちらを見下ろすような形で立っていた。
正確には覆いかぶさるような形で、といったほうがいいかもしれない。
年齢は二十代後半と言ったところか。
身長は……目視で一八〇オーバー。
でかい。しかも、無表情で視線がめちゃくちゃ怖い。さきほど一言つぶやいてからというもの、こちらをじっと見つめたままだ。
そして、ようやく悟った。退路を断たれたことに。
「…………」
「…………」
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