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女性との間の沈黙は、鉛のように重い。
しかも、頭上から見下ろされているからプレッシャーがすごい。
女性の顔立ちが整っていることもその圧力に一役買っていた。
なにか、言わなければ……
「あ、あの……」
震える手で鞄から角封筒を取り出し、おずおずと見せる。
「予約をしていた……中本……でし!」
噛んだ。
恥ずかしい。
しかもその瞬間、女性は顔を背け、ものすごい勢いで壁を叩いた。
怒らせた?
いや、口元を抑えているところを見ると、ニヤニヤしている?
「……失礼しました。お待ちしていました、中本さん。私が加島です」
加島はこちらの頭越しに事務所の戸に手を伸ばし、
「あ、今は――」
止める間もなくドアが開かれ、嬌声が階段に響いた。
女性を見上げ、顔色をうかがう。その眉間に深い皺が一本刻まれた。
彼女は二人が交わっているソファまでいくと、少女の後頭部を叩いた。
「あだっ!」
その瞬間、彼女に乗られている男が情けない声を上げた。
「えっ!? あー!?」
少女は男の頬をぺちぺちと叩いた。
「もうもう! あと、ちょっと、いいところだったのに!」
少女は振り返り、女性を恨めしそうな目で見た。
「そっちの子は空気読んでくれたのに!」
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