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それからしばらく、クラウルはゼロスが戻ってくるのを待っていた。置いてあった服を着て、何があったのかをまず聞きたいと思っていたのだ。
だが、待てど暮らせどゼロスは戻ってこない。不審に思って階下へと降りて宿の主人に問いかければ、予想外過ぎる答えが返ってきた。
「あぁ、あの人なら迎えがきて戻りましたよ」
「な!」
さすがに大焦りだ。風呂に行って、そのまま戻った! それでは二度と聞けないだろう。避けられていると考えるなら、これ以上しつこくするのもどうなんだ。
思わずカウンターに突っ伏したクラウルに、宿の主人は大いに戸惑った様子だった。そして、思いだしたように一枚の伝票を差し出した。
「あぁ、支払い…」
「あぁ、それはさっきの男の人がしてったんでいいんだが、クリーニングの受け取りがね」
「支払い? クリーニング?」
そして支払いまでさせてしまったのか…。
情けなさで死ねそうなクラウルの手に伝票が渡る。それはクリーニングの受け取り伝票だ。
未だ大混乱のままだ。こんなに気持ちの悪い事はない。
何が起こったのかまったく分からず、尚且つ何かあったのだけは確かで、その被害者が何も語らず拒絶するような様子で消えてしまった。
「最悪だ…」
人生において、これが一番の失態なのではと、クラウルは頭を抱えて騎士団宿舎へと戻っていった。
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