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和久井は、調布署の生活安全課の警察官だった。
厳格だった父親の反対を押し切って警官になれたのは、人生を自ら選択した決意と、努力の結果だと自負していた。
3年間の交番勤務を経て、生活安全課で様々な少年少女と触れ合ううちに分かったこともあった。
人は単独で生きるのは不可能であり、社会に没落する恐怖に一番恐れを抱いているのは子供達だということ。
順応する恐怖。
個性を失う恐怖。
闘わずして地位を得る罪悪感や、闘いに敗れることへの過度な恐れ。
どれも何れは、否が応でも経験してしまう事象に明確な答えは無い。
『努力は報われる』
『絆』
『夢は叶う』
等の妄言を肌で感じた瞬間に、崩壊した少年のことを和久井は思い出していた。
3F通路を歩む足が重たい。
この先には新生児室がある。
思い出の中の少年は、地元の不良グループの1人で、中学を卒業すると職を転々としてニートになった。
仲間と酒を飲み、喧嘩に明け暮れて煙草から大麻、そして合成麻薬に溺れて、最期にはヘロインの過剰摂取でこの世を去った。
救えない命は存在する。
救おうとした人間がいるのも事実だ。
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