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少年の死は、人間社会の表裏一体の姿だと感じた。
しかし、早過ぎる別れに和久井は困惑した。
足音が聞こえる。
自分の足音が・・・。
この先の世界を見なくてはならないと思った。
ラウンジルームを過ぎる。
床に転がる紙コップと、置き去りのリュックサック。
起動しなくなったスマホがその傍に見える。
誰と最期に連絡していたのだろうか?
和久井は考えない様にした。
廊下の天然水サーバーのタンクは空になっていて、その上部にも埃が積もっていた。
ガラスの世界が広がっている。
和久井は、そっと手をかけた。
一列に並んだ、無数のちいさなちいさなベット。
眠っていたはずの、新生児たちも消えていた。
大きな泣き声も、マシュマロの様な肌も、ミルクを欲しがる桃色の手のひらも消えていた。
3月1日までの世界は何だったのだろうか?
そこまで育んできた、愛情や信頼や希望や未来は?
その日まで抱えていた不安や失望や怒りや妬みは?
新たに生まれた、強い意思や覚悟は何処へ消えた!?
和久井は走り出していた。
『こんなことが・・・こんなことが許されてたまるか・・・』
現実を受け入れようと必死にもがきながら、ある場所へと向かっていた。
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