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千葉県湾岸埋め立て地に建設された、巨大リゾート型テーマパーク・東京ハッピーリゾートは、東京事象発生から今日まで閉園となっていた。
近隣のホテル群も軒並み営業休止を余儀なくされ、外資系企業が運営するホテルは相次いで日本からの撤退を表明し、施設そのものの存続が危ぶまれていた。
リゾートの保守点検業務を任された企業の人材も、東京事象で全てが失われた。
それは、宿泊施設の従業員も同じだった。
閑散とした駐車場を背に、運行停止に追い込まれたモノレールの車体が、駅構内に野ざらしになっている。
駅前広場に発生したつむじ風が、砂埃を舞い上げながら青空へと消えていった。
数時間前に、この上空を低空飛行したヘリの機体は、東京湾の人工島・東京ハッピーリゾート海水ろ過施設の駐車場に駐機していた。
この施設は『方舟』へと繋がっていて、テーマパーク全体は首都防衛レーダー基地としての役割も果たしていた。
ジェットコースターアトラクション・ワンダーキャッスル最高部は、3次元対空捜索用レーダー。
テーマパークのシンボル・月と太陽の城は『衛星・りんね』地上管制システムレーダーを担っており、その情報は『方舟』戦闘指揮所へ24時間送られ続けていた。
方舟・戦闘指揮所へ向かう通路に足音がこだまする。
槙野恵子を筆頭に、摂津志、そして加瀬浩太郎が続く。
それぞれの顔は決意に満ちていて、鋭い眼光の先に見える、厚さ300mmの扉へ向かって歩いていた。
直立で敬礼している2人の兵士を見て、恵子は僅かに口を動かした。
『扉を開けたら後へは引けんぞ』
志も呟いた。
『生命は捧げましたよ』
加瀬は、何も語らなかった。
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