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日本国際テレビ局第2スタジオは、異様な雰囲気に呑まれていた。
雪丸亜久里を筆頭とする選抜攻撃隊15名の兵士達は、幣原喜三郎の背後で、直立姿勢のまま前方のカメラを見つめていた。
ところが、スタジオ内にはスタッフの姿はなく、テレビカメラに向かって演説を続ける幣原の声と、動揺を隠せずに嗚咽する、若き隊員の声だけが共鳴していた。
そんな空間の中では、流石の幣原も疑心暗鬼に苛まれてた。
しかし、表情や仕草で悟られてしまう程、幣原は青臭くはなかった。
傍から見たら、威風堂々たる語り口で、大衆の心を掌握する稀代の将軍といったところだろう。
演説は日本全国はもとより、全世界へ向けて配信されている筈だった。
無論、幣原も承知していた。
さかのぼること30分前。
局アナの羽田と上念は、このスタジオで激論を交わしていた。
そのやり取りを見ながら幣原は、職業アナだと思い込んでいた羽田を見直した。
朝の情報番組で笑顔を振りまき、タレントコメンテーターに媚び諂うイメージは吹き飛んでしまった。
自らの意思を、自らの言葉で語っていたのだ。
そこには、ひとりの人間の正直な姿があった。
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