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死出の旅支度ー。
幣原から名前を呼ばれた選抜攻撃隊の兵士一人一人が、肉親や友人、又は、恋人へ最期の別れを告げていた。
生命の時間稼ぎの独白。
そう考る幣原に反して、15人の兵士達はこの特別な時間を、現世人へ捧げる言霊の締めくくりと捉えていた。
ある者は涙を流し、ある者は始終笑顔で、これまで歩んだ我が人生の軌跡と、そこに関わってくれた人達への感謝の思いを述べていた。
皆一様に同じ言葉で最期を締めくくり、深々と礼をして幣原の背後へ並んで行った。
幣原は、ジワリと汗をかいた。
『お父さん、お母さん、再び会える喜びに私は歓喜しているのです。次なるステージは現世よりも慈悲深く尊く愛に満ちています。幣原大将と共に新世界で待っています』
終始笑顔の一人の兵士は言霊を終え、振り向きざまに幣原を見て涙ぐんだ。
そして言った。
『お供出来て光栄です!有難うございます!』
幣原は、軽く頷き敬礼するしか出来ないでいた。
スタジオには誰もいない。野見山も上念の姿も消えていた。
「逃げたのか?」
と、思いながらも、カメラは目の前で回り続けている。
醜態を晒すわけにはいかなかった。
死出の旅支度の後は、兵士一人一人と握手を交わし、上念に先導されてテレビ局を出る。
その後に、限定攻撃命令が方舟から発動される手筈となっていた。
東京国国防軍の勇敢な戦士達は死を恐れない。
恐怖を国民に植え付ける狙いで召集された、選抜攻撃隊の言霊が始まろうとしている。
雪丸亜久里がスタンドマイクの前に立ち、じっとカメラを見据えた。
幣原はごくりと唾をのんだ。
騙されたのかも知れない。
心の声に膝が震え出して、心臓が口から飛び出しそうになった。
苦痛でしかなかった。
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