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方舟B2戦闘指揮所中央部・青く輝きながら自転する地球のオブジェを眺め、加瀬は僅かに熱を帯びたシールドに手をかけて言った。
誰かに問うわけでもなく、想いを捧げるつもりもない。
冷静に口にした言葉に、反応した人間は誰もいなかった。
恵子も志も沈黙したまま、運命を共にする仲間達の働きを眺めている。
加瀬は、ヘッドセットを付けながら、心根を聞かれずに済んで良かったと安堵した。
『赤子のようだ』
シールドから伝わる熱は、赤ん坊の体温を思わせた。
加瀬の心は揺れていた。
秩序ある世界創生への道しるべ。
開拓者として生命を捧げる『東京国』に思いをはせながらも、死にゆく若き兵士達の声が胸に刺さる。
加瀬は、指揮官としての第一声を方舟内に響かせた。
『これより、超エネルギー銀河宇宙線G線・江東エリア照射攻撃作戦を発動する』
即座に砲術士笠井の声が響く。
『銀河宇宙線G線・江東エリア照射攻撃作戦発動!美津島シールド域、ディフェンスとの誤差005維持』
加瀬の声が続く。
『機関科磁性エネルギー防御層確認。1次攻撃科、万一に備え対空戦闘配備維持』
村雨機関士と、攻撃科小林の声が呼応する。
『磁性エネルギー放出開始まで5・4・3・・・』
『対空戦闘配置維持!新宿上空にヘリ確認。自衛隊病院からのようです』
『2・1・放出はじめ!!』
方舟が小刻みに振動を始めた。
警告灯に染まる指揮所内、オブジェの青色が怪しく光を放ち続けている。
戸田気象観測士の声の後で、警告灯の点滅は消えた。
『マグニチュード2・5 震源千葉東方沖深さ50km、エネルギー放出との関連性は不明』
恵子が呟いた。
『いやなもんだな』
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