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長い尾っぽをくねらせながら、あの日に死んだ理髪店の金魚の幻影は、ずっと脳裏を泳ぎ続けていた。
血の色の水槽。不思議な幻影。塩素系漂白剤の臭いは鼻腔にこびり付いたままだった。
その苦痛から解き放たれた。
雪丸は演説を続けた。
遺言のような演説を。
『ー我々に死は存在しないのです。死は、人間が創り出した虚構の世界です。死を恐れる事で、人々は心清らかな平和な世界を創生しようとした。それこそが宗教であり、秩序であり民族だった筈ですが・・・どうでしょう。私には、現世世界に幸福など存在しないと思えて仕方がない。中東を見てください。イスラエルを見てください。北アフリカはどうですか。極東アジアはどうですか。先進国と呼ばれる国はどうですか。日本はどうですか。ヨーロッパはどうですか。オセアニアはどうですか。世界は・・・世界はちっとも変わらない。それは、人間が進化しないからです。そう。人は常に退化する生き物なのです・・・東京事象・・・世界は目撃しました。桂木内閣と中華人民共和国の暴挙であります。人体実験であります。それを我々が死守しました。極限兵器の奪還です。超大国アメリカはそれを認めようとしないばかりか、あろう事に、自国の事故を我が国に擦りつけようとしている。羽田は死んだ・・・アメリカも死んだ・・・我が国も死んだも同然ではありませんか・・・我々には、死は存在しないと先ほど申し上げましたが、魂の死・・・心の死は無であります。そうであってはならない・・・日本人・・・多くの同胞が、東京事象の影響を受け、次なるステージへと旅立ちました。彼等は死んでなんかいない。生きているのです。時間空を越えて生きている。人は転生する。それは第5塩基Qと、美津島石との相互作用により証明されたでしょう。生命自浄作用は、全ての人間に与えられた最期の力なのです。我々。東京国の兵士は信じている。幣原大将と共に証明する意志を、日本国民と世界の無垢な人々に表明する・・・我々は愚民であるかも知れない・・・愚民であるからこそである。忘れないで欲しいのです。愚民の叫びを!』
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