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幣原は自らの終の様を、昔、ノルウェー郊外のレストランで見かけたヨーロッパシラカンバの堂々たる姿に例え、それらしくありたいと願いながら今日まで生きてきた。
潤色と白菫色の逞しく伸びた太い幹に、白つるばみ色の筋が樹皮のすき間に見える。
垂れ下がる葉の柳染が、北欧の哀しくも艶やかな空色と混ざり合って、その緊張感は清々しくも心地良かった。
孤独とはこうあるべきだと教えてくれたヨーロッパシラカンバ。
その姿は実に潔く見えた。
あれから十数年が経過して、不都合性に錯乱しそうな自分が居る。
ちっぽけなテレビ局のスタジオで、年の離れた若造が雄弁に講釈を垂れる背中を眺め、目線だけは必死に助けを求めながら彷徨っている。
そんな無様な姿など、想像もしていなかった。
幣原の胃は、収縮し痙攣していた。
激しい動悸と、心の声とが脳内で重なる。
『・・・何処だ・・・上念・・・何処行った野見山・・・誰か居ないのか・・・早く迎えに来い・・・早く来い・・・それともどうする・・・どうやってこの場から逃げる・・・このままでは・・・このままでは・・・こんな奴らと道連れなんて・・・』
そんな東京国国防軍大将の思いとは裏腹に、雪丸は演説を続けていた。
『ー運命を共に出来る共同体を、日本国に誕生させる事こそが我らの道なのです。すなわち民族の統一共同体を信じている。必ず実現できると信じている。極限武装兵器方舟と共に、新たな世界秩序を創造していこうでは有りませんか。もはや核など必要ない・・・東京国が、唯一無二の抑止力として存在し続ける世界は・・・誇り高き自由な国家の集合体として、何れは国境も無くなり、人種の壁や信仰の壁をも取り払われる事でしょう。そんな未来の為に、共に闘う同士に栄光と導きを!!』
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