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同時刻・方舟戦闘指揮所の振動は治まっていた。
村雨機関士は、方舟に設置された水圧計と、熱感知器の数値を目前のモニターで確認すると、即座に読み上げ安堵した。
想定内の数値『2,365Mpa』の表示に変化はなく、B3F機関部発電室各セクションにも、異常を示す値は見られなかったからだ。
磁性エネルギー放出時にかかる負荷を考慮して設計された方舟であっても、美津島石という、未知の鉱物の解析は未だ解明されてはいない。
その全容が明るみになる頃には、人類は滅亡していると村雨は密かに願っていた。
とりあえず今は、方舟外壁の放射口から放出されるバリアーによって守られている。
それは、安全の保証と直結していた。
球体の基地を包み込む磁性エネルギーの膜は、第5塩基Qと反応する銀河宇宙船G線そのものである事も村雨達は知っていた。
情報科寺沢の声が早口で聞こえる。
『横須賀、アイゼンハワー、ミリアスに動きあり』
隙もなく聞こえたのは加瀬の声だった。
『監視を強化せよ。うろたえることはない、彼等には何も出来ない』
寺沢はその冷静な言い回しに、気分を落ち着かせることが出来た。
一呼吸入れてから呼応する。早口にはならずに済んだ。
砲術士笠井は、解析モニター上の美津島シールド域(実際に超エネルギー宇宙放射線G線が照射されるエリア)と、ディフェンス域(その影響が広がらないように同時にりんねより照射される反磁性バリアの境界線・上空に見えるオーロラはこのディフェンス域が影響している)との誤差を確認しながらごくりと生唾を飲んで言った。
『美津島シールド域。ディフェンスとの誤差修正。幅00413』
直後に聞こえたりんね管理科畑の声が、讃美歌の様に美しく聞こえた。
『美津島シールド域修正。幅00413』
人口統計数の表示が変わる。
江東エリア・318.
ボールコントローラーを扱うりんね管理科畑の指先が一瞬止まった。
『318人・・・』
それは、間もなく消えゆく命の数だった。
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