片思いと、幸福な日々

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「あの。ルカ様。私はあっちの隅で待ってますんで。アレだったらどっかの誰かとダンスでもーーって、え!?」 ミシェルカから離れようとしたルルキアの手を、小さな手が掴んで自分の方へふわりと引き寄せた。 「折角だから、私と一曲踊りましょ!」 手を取り合って、腰に手を回して、二人は他の男女に紛れて踊り始める。 「ちょっ!なにしてんですか!」 「いいじゃない。たまには」 ルルキアが離れようとしても、掴んだ手は離してはくれない。 それどころか逃げないように身体をさらに引き寄せて、ミシェルカはルルキアをリードしながらクルクルと踊る。 しかし二人が踊るたび、野次馬達の視線はどんどん集まっていく。 女性同士で踊っている姿が、とても珍しいのだろう。 「ひ、姫さん?も、もういいでしょ?」 このまま視線が集まるのはマズい。 自分の存在も、ミシェルカの存在もバレてしまう可能性が高くなる。 そう思って、ルルキアはなんとか離れようと抗ってみるが。そのたび引き寄せる力は強くなっていく。 「ほら、姫じゃなくてルカと呼ぼなさいと言ってるでしょ?それに、ずっと獣の姿だったから人間の身体にまだ慣れてないの。だから私のリハビリに付き合いなさい」 「っ……ですが」 「ダンスもろくに踊れないんじゃ、男なんて寄ってこないもの。早く調子取り戻さないと」 そんな事を言いながら、ミシェルカはダンスに慣れていないルルキアをリードする。 一度もやったことないダンスなのに、ぎこちなくともちゃんとステップを踏めているのは、きっとミシェルカが合わせてくれているからだ。 これで人間の身体に慣れていないなんて、到底思えない。 ーーなんで、私なんかと。 魔法が解けるまで、後十五分。 こんなことをしている場合じゃないはずなのに。 ずっと触れたかった手に触れられて、ずっと近くで見たかった彼女の横顔がすぐそこにあって。こんなんじゃ、振りほどくなんて出来るはずがない。 「期待……しちゃうじゃないですか。馬鹿姫」 仮面で隠れたルルキアの目に、涙が溜まっていく。 しかしその雫は流れることは無く。再びいつもの薄ら笑みを作ったルルキアは、しっかり背筋を伸ばしてミシェルカの方に顔を向けると、小さく呟いた。 「舞え」
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