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その瞬間。
踊る二人の周りを、様々な色のベゴニアの花が風に吹かれ、まるで踊り舞っている様に会場を華やかに咲かせた。
その光景に踊っていた人達も、食事をしていた人達も、歓談中だった人達も、皆声を上げて手を伸ばす。
「まるで魔法の様だ」と。
「ちょ!こんなことしていいの!?」
「大丈夫ですよ。どうせ皆、何かの演出としか思ってませんから」
実際、二人に疑いの目を向ける者は誰もいない。
「まぁならいいわ。目立つのは良い事だし。これでどっかのイケメンが「俺と踊ってくれませんか?」って誘ってくれたらなおいいのだけれど」
まさかそれが狙いで、私と踊ってたんじゃないよな?この姫は。
さっきまでの胸の高鳴りが一気に沈みきったルルキアは、自分の体力の限界に気が付いて、再び猫背になっていく。
「あぁ~ヤバい。さっきまた余計な魔力使っちゃったせいで、まただるくなってきた」
「じゃあなんで魔法使ったのよ」
「気分で」
足を止めて膝に手をつくルルキアに、ミシェルカは腰に手を付けて、口をへの字に曲げたままジッと見つめる。
目元は仮面で見えないけれど。その表情は、心配と不満が入り混じった顔だ。
「……全く。仕方なわね。あそこの壁際で休んでなさいよ。どうせ後十分で魔法も解けちゃうから、最後に良い男と踊って戻ってくるわ」
「……そうですか。なら遠慮なく」
ミシェルカに背を向けて、おぼつかない足でフラフラと離れていくルルキア。
そんな姿をジッと見守りながら、壁に身体を預けて一息ついているルルキアの姿を確認すると、ミシェルカは一人。人ごみの中へ紛れていった。
「はぁ~……情けないなぁ」
見えなくなったミシェルカの姿に、溜息を吐いて身体を休めるルルキア。
自分がこんな状態じゃなければ、彼女を一人にはしないのに。
自分が自身の気持ちにもっと正直になれれば、きっと彼女を離さないのに。
そんな後悔だけが、彼女の身体も心も苦しめていく。
「いや、今更後悔なんて。それこそ情けない」
彼女を、あんな姿にしておいて。
自分の嫉妬心で、彼女を傷つけておいて。
「一人にしない?離さない?ははっ……そんな事、彼女は求めていないのに」
ルルキアの視界が徐々に霞んでいく。
「……姫さん。知ってますか?男なんか求めなくても、貴女を愛してる人がここに一人……いるんですよ」
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