私はあなたを見守る

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「もうホント。私より手荒なんですから。貴女は」 「えぇ~……」 「寧ろアンタは、殺す勢いで襲い掛かってきたくせに?」と言いたい気持ちをグッと堪えて、ルルキアはぐちゃぐちゃに乱れたミシェルカのベットを魔法で綺麗に整えていく。 不本意ではあるが、一応今はメイドとしてこの城で生活している為。ルルキアはそれなりに掃除や洗濯、そして料理までしている。 ほとんどは魔法を使っているが。それでも今まで何もしてこなかったルルキアは、毎日主婦のような生活をしてきたおかげで、ミシェルカよりも女子力があるように思える。 「これはあれね。姫である私に盾突いた罰を与えないといけないわね」 「いや。あれは正当防衛……」 「そうねぇ~何にしようかしら~」 「人の話聞かねぇな。この姫様はよ」 しかしこれでも最初の頃に比べると、ミシェルカは確実にルルキアに心を開いていた。 最初の頃は、捕まえたルルキアを檻に閉じ込め。一日中夜も寝らずにずっと見張り続けていた。 何を話しても、一言も返事を返さず。ただ監獄に閉じ込められた囚人と看守のような、関係だった。 だがきっとそれが当たり前だったのだ。 一緒に住んでいる相手は自分を獣の姿にした張本人。次は何をされるか分からない。けれど魔女がいなければ魔法の解き方もさえも分からないし。復讐さえ出来ない。 きっとミシェルカでなくても、誰だってそうする事だろう。 けれどそれから数か月経ったある日。溜まっていた不安が一気に溢れて出てしまったミシェルカは、月もない真っ暗な夜に一人。城の外で泣き崩れてしまった。 ずっと今まで弱みを見せなかった彼女の、初めての辛い涙。 拭ってくれる人は、もう誰もいない。 そう思っていた。 「えっ……」 急な強い向かい風に、ミシェルカが顔を上げた瞬間。 夜の闇を照らす真っ白なナナカマドの花が、ミシェルカの手の中で開花したのだ。 「こんな事が出来るのって……」 キラキラと輝きを見せる花を手にしたまま、相も変わらず座り込んで遠くを見つめているルルキアに、ミシェルカは手を伸ばしてこう言った。 「魔女ルルキア!私の専属メイドとして働きなさい!」 あの時の返事を、ルルキアは未だに少し後悔している。
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