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「あら、いいじゃない。このドレス」
ドレスが気に入ったのか、スカートの端を持ってミシェルカはクルリと回る。
きっと上から見れば、開花した美しい花の様だっただろう。
ーーあぁ……とても綺麗だ。
純粋に、素直に、誠実に、きっと誰もがそう思う。
だからこそルルキアは不満だった。不安だった。
「やっぱり……舞踏会行くの止めませんか?」
「は?」
もし本当に、彼女を愛した男性が現れたらーー。
「ほら!時間だってあまりないんですし」
「ここまでしてもらって行かないなんて言うわけないじゃない」
「そう……ですよね」
分かってはいたが。揺らぐことのないミシェルカの気持ちにルルキアは杖を強く握りしめる。
きっと今の気持ちを口にしてしまえば、行かないでくれるかもしれない。
けれど伝えてしまえば、何かが壊れてしまうかもしれない。
「姫……私は」
さらに強く杖を握りしめて、ルルキアは目を背けたまま唇を噛みしめる。
そんな彼女の肩を、ミシェルカは手のひらで軽く叩いて。優しい温かな笑みを向けた。
「貴女が作ってくれたこのドレスを、皆に見せびらかして来るわ。まるで魔法にかけられたみたいでしょ?ってね」
ルルキアが自分のかけた魔法に自信が持てずに不安になっていると勘違いをしたのか「だから絶対大丈夫よ」なんて最後に付け加えて、ミシェルカはそのままヒールをコツコツ鳴らしながら走っていく。
その言葉に、その微笑みに、俯いたままのルルキアは顔を真っ赤にして、握っていた手を震わせていた。
懐かしい記憶と、湧き上がる感情。
魔法にかけられたのは、一体どちらの方なのか。
「姫さん~!走ったらドレスが汚れますよ~!」
もしどちらともであったならば、先に魔法が解けるのは一体。
どっちになるだろうか。
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