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腰に下げていた刀を机の横に立てかけ、教室の中をザッと見回した瀬那が言った。「やはり、何処も人不足というわけか」
――――現状、一真たちのような若い新規入隊者は年々数を減らしてきている。ましてここ京都は最前線に近いといえば近いような距離にある。幾らここが名門と言われている士官学校でも、最前線に近い所に入るような奴は志願者か、或いは徴兵された地元の人間だけということだろう。
「――――よっ、チョイといいか?」
なんてことを瀬那と話していると、突然別の何者かが一真に声を掛けてきた。
ふっと視線を上げてみると、一真の目の前には一人の男が立っている。一真と同じように制服を着ている辺りクラスメイトのようだが、少し長めの茶髪に緩んだ表情と、雰囲気は何処か軟派な感じだった。
「お前は?」
と、一真が話しかけてみる。
「俺か? 俺は白井彰。やっと同じ男子見つけたから、気になっちまってよ」
するとその男――白井彰は、ビシッと前髪を揺らしながら名乗る。
「そういうことか。俺は弥勒寺一真、んでこっちが綾崎瀬那」
瀬那も含めて名乗り返してやれば、後ろで瀬那が「白井、か。よろしく頼むぞ」と、腕を組みながら相変わらずの尊大めいた態度で白井に言った。尤も、どうやらこの態度は完全に素から出ているもので、他意は無いらしいのだが。
「弥勒寺に、綾崎ね。よっしゃ、覚えた!」
「それで、白井……であったか。貴様に言われるまでは気付かなかったが、確かに男子の数が少ないようだ。何か理由でもあるのか?」
やたらとテンションの高い白井に、やはり腕組みをしたままで瀬那が訊くと「うーん、俺にもよく分かんねーけど」と白井は前置きをして、
「やっぱ、人手不足なんじゃねーのか? 特に男はさ」
「人手不足、か……。して白井よ、貴様は志願か?」
続けて瀬那が訊いてみたことに白井は「んにゃ、徴兵」と首を振って否定する。
「でもまあ、TAMSのパイロットってのはやってみたかったしさ。どうせ徴兵されるならと思って、パイロット選んだってワケよ」
「殊勝な心掛けであるな。貴様のような男、嫌いではないぞ」
「おっ!? 嬉しいねえ、だったら話は早いぜ。綾崎さ、今日これ終わった後にでもどうかな? 食事でも……」
と、調子に乗り出した白井が何か誘い出したタイミングで。
「――――綾崎、ちょっと来い」
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