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「まずはあの娘だ、見てみろ……」
やはり顔を近づけて囁くように言った白井が示すのは、丁度一真の席と真反対の位置に座る少女。つまり一番通路側の列で、最後尾から二番目の席に座る彼女だ。ショートカットにバッサリ切り揃えた黒髪に切れ長の碧眼、スッと整った顔立ちは何処か西洋の雰囲気を微かに漂わせていて、ザ・大和撫子といった風な瀬那とはまた別の魅力を感じられる。
「名前は?」一真が訊く。
「確か……東谷だ。東谷霧香。ありゃあ綾崎に次いでイイ女だと思うぜ俺ァ。一真よ、お前もそうは思わないか?」
「……うん、確かに中々良い」
「だろぉ!」と、やたらと上機嫌に白井が喜ぶ。
「でも、結構クールそうだ。攻略は中々難しいんじゃないのか?」
そういう一真の視線の先で、噂の彼女――東谷霧香は他のクラスメイトに目もくれず、鞄からスッと取り出した文庫本らしき物に視線を落としていた。その横顔はここから見ても分かる程に涼しく、とても白井のような奴が落とせるタイプには思えない。
「バカヤロー、一真オメー分かってねえなぁ? 気合いだよ、気合い!」
だが白井はそれを知ってか知らずか、やはり妙なハイテンションでそう答えてくる。その後で白井が「じゃ、次はあっち」と次の女子を指し示し、話題を移す。
「あっちは東谷とはまた別のタイプだな。ロリ系っつーか、なんつーの? 思いっきりドジっ娘オーラ漂ってるよな」
うん、と大きく頷いて同意する一真の視線の先。教室の中央ほどに立つ少女は、今まで見てきた瀬那や東谷とは全く別のタイプの少女だった。
背丈は150cmあるかないかといったぐらいに低く、当然のように胸に起伏は皆無。セミ・ロングの長さにした深緑の髪の下に見える顔立ちはやはり幼く、双眸の前に掛けた赤いハーフ・リムの眼鏡のお陰で多少マシにはなっているが、その少女はやはり何処か強い幼さを感じさせる容姿だった。ぽわわんとしてふわふわとした表情のせいで、余計にそれを強く感じてしまう。
「ありゃあ好きな奴はドンピシャだぜ? 確か名前は壬生谷美弥だ」
「……白井、ああいうのが趣味なんだ」
「馬鹿、なわけねーだろ。俺はおっぱいデカい娘が好きなの。壬生谷には悪いけど、ありゃ守備範囲外」
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