第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』

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 いつもの尊大な態度に戻った瀬那に、しかしそれを咎めることもないままズズッ、と珈琲を啜り、西條が言う。 「君は綾崎家の引き留めを押し切り、家を飛び出した。そして私が融通し、ここへやって来た。……そうだな?」 「ああ」傍らに置いた刀に小さく触れながら、感慨深そうに瀬那が呟く。「幼き頃より今日まで、其方には世話になりっぱなしだ」 「気にしないでくれ、私が好きでやっていることだ……。  ――――本題はここからだ。瀬那、君は本当にこのままTAMSパイロットとして任官されるつもりか?」 「無論だ」瀬那が頷いた。「その為にここへ来たのだ」 「……軍人という奴は、瀬那が想像しているよりもずっとキツい世界だ。まして、TAMSのパイロットとして前線に立つ気なら、尚更」 「…………承知の上だ」 「今なら、まだ引き返せる。裏を返せば、ここを過ぎればもう引き返せないってことだ。  ――――瀬那、君は覚悟があるか? 軍人として生き、責務を全うする覚悟が」 「ある」真剣な顔で問うてきた西條の問いかけに、瀬那も真剣な眼差しで即答した。 「無辜(むこ)の人々が苦しみ喘ぐ中、私一人だけがのうのうと後方に控えていることなど……私には、許容できない」 「それに、家柄に縛られたくない。――――だろ?」  茶化すみたく少しウィンクめいた仕草をした西條に言われると、「それも大いにある」とやはり瀬那は肯定した。 「瀬那、君の覚悟はよく分かった。私もこれ以上、野暮なことは言わぬよ」 「……すまぬな、舞依。其方には本当に迷惑ばかりを掛ける。幼子の頃も、そして家のことにまで……」  スッと頭を下げた瀬那を「よしてくれ、君が頭を下げることはない」と西條は止める。 「さっきも言った通り、私が好きでやっていることだ。だから瀬那、君が気にすることはないし、綾崎家のことは私の方でなんとかしておく」 「本当に、其方には世話になってばかりだな」 「いいのさ。幸いにして、君には才能がある。TAMSを乗りこなすだけの才能も気概も、瀬那は十分に兼ね備えているはずだ」 「世辞はよしてくれ」 「お世辞じゃないさ」珈琲を啜りながら、西條が言った。「私がお世辞を言うようなタイプに見えるか?」 「"関門海峡の白い死神"との異名まで取った其方に言われると、無意味に心が舞い上がってしまうものでな」 「……その名前で呼ぶのは勘弁してくれよ、瀬那。あんまり好きじゃないんだ、その呼び名」
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