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「そうであったな。不躾なことをした」
と、そうしたタイミングでチャイムが鳴る。入学式後のオリエンテーションの時間が近いことを知らせる、予鈴のチャイムだった。
「おっと、もうこんな時間か……」
チャイムに気付いた西條が、コーヒーカップ片手に立ち上がる。
「じゃあ瀬那、教室に戻るとしよう」
「……舞依」
しかし瀬那は立ち上がることなく、西條の方を見上げながら彼女の名を呼んだ。
「どうした?」
「何故、あの男と……一真と私を、同室になどしたのだ?」
「だから、昨日も言ったろう。部屋割の問題が……」
「嘘であるな」見透かしたような眼を向けながら、瀬那がキッパリと言う。「アレは、一真に向けた建前だ」
西條ははぁ、と小さく溜息をつき、「バレてたか」と小さく呟いた。
「当然であろう。其方との付き合い、決して短くはないのだ」
「……弥勒寺なら、瀬那の良い相棒になれると思っただけさ」
「相棒?」瀬那が訊き返す。西條は「ああ」と頷いて、
「弥勒寺も、瀬那とよく似た境遇だからな」
「一真が……?」
「奴も、徴兵を回避出来る家柄にありながら、それを自ら拒んでここに志願してきた男だ」
「そうであったか……一真が」
「ま、詳しいことはいずれ本人から直に訊くといい。ここで敢えて私が全部話すことは無いだろうさ」
言いながら、コーヒーカップを片付けた西條は談話室の出口の方へと歩いて行く。瀬那も立ち上がり、刀を腰に差し直すと彼女の後を追った。
/7 Int.07:胸中、少年少女たちの想い
「さて、改めて挨拶をさせて貰うとしよう。――――西條舞依だ。階級は一等軍曹、今日から君らA組の専任教官となる。要は担任だ」
A組の教室、前方の教壇に立った西條はさっさと名乗ると、それを皮切りにオリエンテーションを始めた。
「そして、こちらが錦戸一等軍曹。A組の副担任になる。……錦戸、挨拶を」
「はい」西條の傍らに控えていた、フォーマルなスーツ姿の大男がスッと前へ一歩出る。
「ただいま西條教官のご紹介に与りました、錦戸明美と申します。明美なんて名前ですが、これでも歴とした男ですよ?」
温和な表情を絶やさぬ錦戸が言うと、教室の中に小さな笑い声が零れる。一真も思わず笑みを浮かべてしまった。
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