第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』

16/201
前へ
/201ページ
次へ
「そうであったな。不躾なことをした」  と、そうしたタイミングでチャイムが鳴る。入学式後のオリエンテーションの時間が近いことを知らせる、予鈴のチャイムだった。 「おっと、もうこんな時間か……」  チャイムに気付いた西條が、コーヒーカップ片手に立ち上がる。 「じゃあ瀬那、教室に戻るとしよう」 「……舞依」  しかし瀬那は立ち上がることなく、西條の方を見上げながら彼女の名を呼んだ。 「どうした?」 「何故、あの男と……一真と私を、同室になどしたのだ?」 「だから、昨日も言ったろう。部屋割の問題が……」 「嘘であるな」見透かしたような眼を向けながら、瀬那がキッパリと言う。「アレは、一真に向けた建前だ」  西條ははぁ、と小さく溜息をつき、「バレてたか」と小さく呟いた。 「当然であろう。其方との付き合い、決して短くはないのだ」 「……弥勒寺なら、瀬那の良い相棒になれると思っただけさ」 「相棒?」瀬那が訊き返す。西條は「ああ」と頷いて、 「弥勒寺も、瀬那とよく似た境遇だからな」 「一真が……?」 「奴も、徴兵を回避出来る家柄にありながら、それを自ら拒んでここに志願してきた男だ」 「そうであったか……一真が」 「ま、詳しいことはいずれ本人から(じか)に訊くといい。ここで敢えて私が全部話すことは無いだろうさ」  言いながら、コーヒーカップを片付けた西條は談話室の出口の方へと歩いて行く。瀬那も立ち上がり、刀を腰に差し直すと彼女の後を追った。 /7 Int.07:胸中、少年少女たちの想い 「さて、改めて挨拶をさせて貰うとしよう。――――西條舞依(にしじょう まい)だ。階級は一等軍曹、今日から君らA組の専任教官となる。要は担任だ」  A組の教室、前方の教壇に立った西條はさっさと名乗ると、それを皮切りにオリエンテーションを始めた。 「そして、こちらが錦戸一等軍曹。A組の副担任になる。……錦戸、挨拶を」 「はい」西條の傍らに控えていた、フォーマルなスーツ姿の大男がスッと前へ一歩出る。 「ただいま西條教官のご紹介に(あずか)りました、錦戸明美(にしきど あけみ)と申します。明美なんて名前ですが、これでも(れっき)とした男ですよ?」  温和な表情を絶やさぬ錦戸が言うと、教室の中に小さな笑い声が零れる。一真も思わず笑みを浮かべてしまった。
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加