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随分と温厚そうな顔を絶やさないせいでかなり温和な印象な錦戸教官だったが、しかしその雰囲気は顔に似合わず、と言っても良い。肩幅が広く190cm近い身長とガタイはかなり良く、髪はザッと男らしく刈り上げた短めのスタイル。まして彫りの深い顔には、左眼の目尻あたりに刀傷めいた縦一文字の大きな傷跡があるせいで、口を開かなければかなりの鬼教官にしか見えない。
その左眼の傷は何だと前方の方に座る女子生徒が訊くと、「昔、戦闘中にやってしまったんです。あ、眼はきっちり見えてますよ?」と、やはり温厚そうな顔と口調で錦戸は答えた。
「というわけだ。諸君らと接する時間は私よりも少なくはなるが、しかし彼もここの副担任であることに変わりはない。何かあれば私でも、錦戸でもどちらでも構わんから、気兼ねなく頼るといい」
それから西條は、この士官学校に関することをザッと説明した。何処に何の施設があるのだとかとか、支給される品々や給与体系の話なども。ここは仮にも国防軍の育成施設であるから、例え訓練生の身分であってもちゃんと給金が出るのだ。
「……ということで、基本的にはこのカードで金管理を行え。事前に配布したコイツだ」
そう言って、西條は胸ポケットから大柄なICカードを取り出し見せつけた。一真も勿論、それは事前に渡されている。
「士官学校内、及び軍関係の施設ならば世界各国、例え欧州連合軍の基地であっても使える世界共通のカードだ。PXで個人装備品を自前で買う際だとか、自販機にもコイツは使える。営外の為に現金化も可能だが、勿論使える範囲は諸君らの手持ち分に限られている。あまり無鉄砲に使いすぎるなよ?」
「便利なものだな、最近の軍というものは」
西條の言葉が途切れたところで、後席の瀬那が自分のICカードを眺めながらそんなことを呟いていた。軽く振り返って一真は「便利なのはいいことだろ?」と瀬那に小声で返し、教壇の方に居直る。
「さて、説明はこんな所にしておこう。明日から早速、本格的に教練が始まるんだ。自ずと分かるところもあるだろう……。
――――だが、その前に」
声色を変えた西條の雰囲気に圧され、和やかに解れていた教室の空気が一瞬にして固く凍り付いた。ゴクリ、と生唾を飲む音すら聞こえてきそうな勢いだ。
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