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顔を真っ赤にした少女は、何故かベッドの傍らに立てかけてあった日本刀――江戸時代の本差、打刀程度の丈だ。素人目にも分かる程に良い誂えが施してある――を怒りにまかせて抜き放つと、明らかに玉鋼で出来た真剣にしか見えないソイツを振りかざし、一真の方へと突っ込んでくる。
「ま、待て! 俺が悪かった! 悪かったけど、やめろ! 死ぬ! 死ぬって!」
「問答無用っ!!」
振り下ろされた白刃が、目の前にまで迫ってくる。
斯くして、京都士官学校に於ける一真の生活は、こんな妙な形で幕を開けた。
/2 Int.02:弥勒寺一真と綾崎瀬那①
――――今から四十年前、この世界に振ってきたのは神でも悪魔でも、まして世界の終わりを告げる恐怖の大王でも無く。物言わぬ侵略者たちだった。
"幻魔"と、奴らはそう呼ばれている。地球上の六箇所に落下した巣、"幻基巣"から無尽蔵に湧き出る侵略者。コミュニケーションは取れず、その意図は未だ掴めないまま。種の存亡を掛けただ戦うことのみが、人類が唯一許された彼ら"幻魔"への接触手段だった。
世界各国軍の文字通り死力を尽くした奮戦と、身長8mの人型ロボット兵器"TAMS"の開発が功を奏し、人類は辛うじて六箇所の幻基巣の内二ヶ所を破壊することに成功した。だが幻魔の勢いは衰えるどころか寧ろ増す一方で、辛うじて得た勝利も虚しく、人類はただただ防戦一方のまま、追い詰められ続けている……。
幻魔が訪れる前の世界なら、きっとSF小説の題材にでもなっていたのかもしれない。巨大ロボット兵器が群れを成し異星人と戦うだなんて、まるでお伽話だ。
しかし、これはこの世界にとっての紛れもない事実である。そんなお伽話めいたことの為に、今までにどれだけの人間が犠牲になったことか。その数は計り知れず、いつしか人々はその数を数えることすらやめていた。
そんな幻魔に対抗出来る、最大にして最強の陸上兵器・TAMS。それに乗り込む将来有望なパイロット候補生を育て上げるのが各地に存在する士官学校であり、中でもここ、国防陸軍・京都士官学校は名門の一つに数えられる内の一つだ。既存の公立高校をそのまま徴用する形で出来上がった訓練施設だが、その規模は大きい。
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