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そんな京都士官学校の、徴用した高校校舎の二階にある談話室。そこに弥勒寺一真は連れて来られていた。
「――――つまり、案内された弥勒寺が部屋に入ったところ、全裸の綾崎と鉢合わせしてしまったと」
一真の対面にある革張りのソファに座る指導教官・西條舞依はコトの顛末を大方聞き終えると、煙草を吹かしながら至極面倒くさそうに一言で纏めた。
「完全に事故だな、それは」
「ですよね」
「――――しかし、西條教官っ!」
参った顔で同意する一真の横で立ち上がり、血相を変えて西條に異議を申し立てるこの少女こそが、一真が先程寮の部屋で出くわしてしまったあの少女だ。名前は綾崎瀬那。長い髪を今は頭の後ろでポニー・テール風に紐で纏めていて、訓練生用の学生服じみたブレザーと短いチェック柄のスカートを身に纏っている。
「なんだ、何か不満でもあるのか、綾崎訓練生」
「事故であることは認めましょう。ですが、教官! そもそも男子と同室であるなど、常識的に考えられないことでありましょうて!」
顔を真っ赤にした綾崎の申し立てに「……ま、そうかもしれんが」と西條は一度同意の色を見せるが、
「しかし、こちらとしても余裕はないのだ。ただでさえ今期の男子訓練生は少ない上、殆どが実家通いだ。なのに弥勒寺にだけ個室を割り当てていては、幾ら寮があっても足りはしない」
と、綾崎の異議をバッサリと切り捨ててしまう。
「ですが!」と反論する綾崎。「ならば、何故事前にお教え頂けなかった!?」
「んー、まあ直前まで決まってなかったからな」
「決まってなかった……?」
反芻するように言う綾崎に「ああ」と西條は頷き、
「決まったのは今日の朝、弥勒寺がここに到着してからだ。誰を同室にして犠牲にするか最後まで悩んだんだが、結局は綾崎、お前に決まった」
「なら、何故それを先に!」
「いや、一応事前にお前の部屋に行ったんだが、生憎留守だったからな」
「っ、それは……!」
言葉を詰まらせ、綾崎はそれ以上の反論をやめた。実は彼女、一真が部屋に入ってくる少し前まで朝の自主トレーニングに出ていて、丁度あの時は汗を流しシャワーを出た直後だったのだ。だから、あんな姿だったというワケだ。
「お前とは境遇も何処か似ている男だ、相性は悪くないと思ってな……。
――――とにかく、そういうことだ。弥勒寺? お前も異論は無いな?」
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