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 一方、(カラス)は彼の異母兄でありながら、そう名乗ることを許されず従僕として人生を歩んできた。母が身分の低い女中でありながら<家>の主に愛されてしまったことが、彼の人生のそもそものきっかけでもあり、また間違い………でもあった。  使用人部屋で生まれ、使用人部屋で育った。だが父からは、息子である証明とするかのように、とある「鳥」の名を冠した名を授けられた。  <都>の格式ある家々では、直系一族の名前を「花の名」や「暦の別名」など、家の伝統に則り系統付けて命名することが好ましいとされていた。気高い鳥の名を与えられたがゆえに彼は、生母の死後、父の正妻から「汚い黒鴉」などと綽名され憎みぬかれることになるのだが、今思い返せば、名前だけが、父が己に示すことのできた唯一の、想い入れであったのかもしれぬ。  鴉が生まれたころ、父の正妻にはすでにひとり目の子があり(異母兄にあたる)、その兄は鴇也(トキヤ)といった。歳が近かったので、<家>がそんな事情でなければ良き兄弟となれたかもしれないが、物心つくころには正妻から仲良くすることをきつく戒められて、二人は生活のすべてにおいて身分の差を肌で感じながら、互いを意識しつつ心通わせることのない幼年期を送った。
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