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 鴉が家主の二男であることは、使用人たちの中でもいわゆる「公然の秘密」であった。  父もけじめをつけたつもりか、名を与えたはずの彼を息子として扱うことは一切なかった。鴉にしてもそのほうがむしろ気が楽だった。父にこっそり目を掛けられている所を誰かに見られでもしたら、正妻にたちまち伝わってしまう。そんな面倒は願い下げだった。  父の正妻に憎まれ、疎まれた日々。それでも実母が熱病に罹って死んだ当時、未だ彼は十歳であったから、<家>を追い出されるまでには至らなかった。ほかの家僕の養子にされたのだ。住まいが女中部屋から、庭師小屋に移っただけのことだ。  王宮の有力な廷臣だった父は、そのころからは貴家同士の争いをとりもつ<調裁官>という役目を賜っていた。自分に関わる揉め事は、極力避けて通らねばならなかった。父はことを荒立てて醜聞が<都>に広まるのを恐れたのだろう、また浮気をしていた後ろめたさもあり、正妻のやり様に口を出すことも全くしなかった。ただ<鴉>をどんな苛酷な境遇であれ身近に置いておくことが、悪い噂を防ぐ手立てだと考えていたようだった。  もしくは、鴉を追いだそうとする正妻に対して、その結論に至るまで譲歩させたのはもしかすると父であったのかも知れないが、今ではそれも定かではない。
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