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正妻の鴉への当たりようは酷いものだったが、彼女の鬱憤はすべて鴉を攻撃することによって発散されていたので、他人に対しては意外に普通に接することができていたようだ。いやむしろ彼女は、都で評判の貴婦人だった。
嫉妬深さは並以上だが瑠璃鶲のように美しく、文学や音楽を愛する典型的な<都>の上流階級であった。
彼女はそれなりに夫を愛しているようだった。しかしそれ以上に、夫に愛されていることを周囲に証明したがっているように見えた。子を産むことが世間に「仲睦まじい」と認めさせる手段と感じていたのだろうか、子供好きではない筈なのに常に子を欲しがっていた。
長子の鴇也を産んで以後なかなか子に恵まれず、幾度かの流産ののちに、ようやく二人目を産んだ。それもまた鴉が十の時のことである。
二人目の子は雉という字を入れて「薙紗」と名付けられた。
とても小さな白子のような赤ん坊で、産声はか細く、到底長くは生きられないだろうと医師は云ったそうである。
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