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――「薙紗」は、言わずもがな女性名だ。
父も母も、一目見て赤子を女の子だと思ったようである。
のちに医師がきちんと調べて、男子であることがはっきりしたのだが。
医師によればつまり、「母親の胎内での発育異常による、生殖器の退化がみられる」と。
男性器と女性器は、発生学的には同一のものである。胎生期に、性別によってその部分が肥大するか縮小するかの差だ。
薙紗のそれは男性器として成長せねばならぬはずが退化し、見た目には女性器の様態を形成していた。
それ以外の部分は男性として分化していったために、子宮や膣など、女性にあるべき他の器官はない。生物学上、はっきりと男に分類されるといっていい。
ただし男としても精巣が完全に埋没しているので生殖能力はなく、不具であった。
薙紗の顔や体つきが少女とそう変わらないのは、性徴分化に必要な体内の分泌物が、精巣の欠落によって作られないためだった。十五歳にもなるが声変わりもせず、男性としての発達も一切していない。歳よりはやや子供らしくも見える。
何らかの染色体の異常なのか。
それとも流産を繰り返した母親が、子供が出来やすくなるからと人に勧められて買い漁り、飲んでいた如何わしい薬が祟ったのか。それも定かではない。
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