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 また薙紗は、<家>にいた年若い従僕が、実は半分血のつながった二番目の兄であるなどと知らずにきた。周囲の誰一人としてその哀れな事実を薙紗に告げる者はいなかったし、鴉自身、そのみじめな事実を弟に暴露するつもりはなかった。  ただ鴉は、十歳年下の、そうした特殊な障害をもつ薙紗に、庇護欲を掻きたてられていた。  正妻からは近づくことを禁じられていたものの、<家>には年若い使用人が他に居なかったから、薙紗は隠れて、彼に対して他の誰よりも親しく接した。  その不遇の生い立ちから若くしてすでに人好きのせぬ、不遜なまでの眼光と、翳りを帯びた朴訥さを身に付けていた鴉であるが、薙紗といるときは心の安らぎを覚えていたのだった。面に出さずとも、それは事実だ。
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