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さらに、突如として家督を継ぐことになった鴇也は廷臣としての重責と多忙のあまり、実弟である薙紗をも疎んじはじめていた。もともとここにも濃密な兄弟愛など存在していなかったし、薙紗は何より、生きていくだけで他人の補助が必要なのだ。専属医師を雇う金もかかる。鴇也はなにを世話をしていたわけでもないのに、「弟は手がかかり過ぎる」と感じたようだ。
そんなとき宮廷で話題に上がったのが<聖宮>が新しい御柱を探し求めている、という噂。
鴇也は、我が弟こそ相応しいと手を挙げた。「陽の当らぬ所で暮らしてきた薙紗が、ついに脚光を浴びるに相応しい舞台を見つけたのだ」と、彼はもっともらしく鴉に説明した。
本心はむろん、「手も金もかかる」弟を体よく厄介払いするためだろう。
家から御柱が出たとなれば、都での名声もより高まる。そうした打算も働いたことだろう。
<聖宮>から御使たちがやってきて、薙紗の体を調べ、忽ち薙紗は次代の御柱となることが決まった。
鴇也は晴れやかだった。
抗う術をしらぬ薙紗は、ただ受け入れる覚悟を決めた。
鴉だけが鴇也への怒りと薙紗への想いを猛り狂わせて、
とうとう聖宮から迎えが来るという前日の夜に、薙紗を連れて<家>を脱出した。
<御柱>候補を奪われた龍神の怒りなのだろうか? ……その夜から都に降り出した雨は、彼ら兄弟を、追いかけるように今も降り続いている。
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